■モンブランの麓クールマイユール
5レストラン巡り
最初の日、月曜日にジャンを見送ってからシャワーを浴び、5時頃、町へ偵察兼夕食に出かける。ホテルを出てすぐバスターミナルがあり、東へジグザグ登ると広場をはさんで教会がある。町はここを中心に南北に延びてる。ジヤンに教わったシャモニーへのバレイブランシュ氷河スキーテュアーを受け持つスキー協会は閉まっていた。メインストリートを更に南へ行くと、本屋、雑貨屋、薬局、スキー用具店、銀行、大きなガラスウインドウのブランドショップ等が両脇に並んでいる。町並みは美しく、車輌進入禁止の狭い道にはかなりの人が歩いている。エアデールテリア犬を引いている人、スキー板を担いでいる人。歩きながら又は道端に腰掛けて紙に挟んだピザやソフトクリームを食べている若者たち。レストランが幾つかあるのだが皆閉まっている。道筋を変えて戻るが、開いてるレストランはない。
途中の雑貨屋でタバコを買い、近くの店でフライドポテトとグリルドチキンとワインをテイクアウトしてホテルにこっそり帰り、部屋でぼそぼそと食べて最初の夕食とする。バスにゆっくり浸かっていると温泉気分になり、ジャンとの今日一日のスキーをたどりながらベッドに入る。
火曜日の夕方、スキーから帰ってアンドリュウに聞くと、レストランが開くのは7時か7時半だと分かる。7時頃、チョコレート色のババリハット、茶色のコールテンのジャケット、ワイシャツを着てネクタイはポケット、ノーアイロンの茶系のズボンで部屋を出る。フロントで男性と合い「ボナセラ、ディナーに出かけるところです」、「Eat well」、「チャオ」で表へ出る。地図をだいたい頭に入れ、東へ登り、すぐ突き当たって教会の方とあえて反対の北に歩き出す。すぐ店がなくなり街灯もポツリポツリの暗闇。引き返そうかという臆病っ気を押さえながら更に進むと右手の引き込んだ所に、ボンヤリと明かりの灯った建物が見える。ネクタイを取り出して締め、浅く雪の積った広場を突っ切ってドアーを開ける。「夕食たべられますか?」、「10分待ってください」で一段下がったロビーで待つ。旗、像、食器、ピッケル、アイゼンなど全てこの店に係わるらしいアンティークを、真面目そうに眺める。
しばらくして7時半か、案内された結構大きい一部屋には、真ん中にサラダバーのテーブルがあり、食卓も4、5個ある。その奥のもっと大きいディナールームに導かれる。いつもの様にだいたい全体が見えるように、暖炉の隣りのテーブルに座る。ババリハットをマントルピースに置いてメニューを見ている間に隣りの席に二人の女性が来る。メニューのこの辺かとフルコースと白のグラスワインを注文して当たり障りのない話しをする。かごで編んだ一かごのパンケースには、包装されて細長いスティックパンの他に切ったフランスパン、雑穀入りの食パンが盛られていて、ローマ経由で日本へ帰るまで大体こんなものだった。スティックを時々シガーのように口にくわえる。ソースのきいた前菜を食べている間に女性の一人がケイタイで何か話していて、しばらくして又婦人が来る。三人とも同じ年格好で、地元の有閑婦人と仮定する。
隣りのサラダバーの使い方を見習う。色とりどりの新鮮なサラダが4、5枚の大皿に取り分けられていて、ここだけはセルフサービス。席に戻り、ネクタイを緩めて赤のグラスワインを追加注文。テーブルのいくつか先の窓越しに、入ってきた暗闇の広場が見える。そんな中、私は今ここにいる事情を簡単に話し、周りを見回して「この見える雰囲気は、言葉が全く聞き取れないから、ファンタステックでサイレントムービーを見ている感じだ」と言ったら、「理解できる」という。デザートにミカンが1個出てきて、中の房がそのまま皮に形を出している。指で乾いた薄い皮をむき、房を外して内皮から実を出すと、丁寧に種まである。フォークで外す。今の様に甘みの多いものではなく、昔はよくあった懐かしの味。見られているので、「これは何と言うのですか?」、「マンダリンです。昔の」。そこで「If without seed there is no the seed of talk」と言ったら、三人は、カラカラと笑った。コーヒを飲んでチェックし、チャオでババリハットを持ちフロントに行く。33ユーロ。「おいしくて高くない」に「安くて日本人がよく来る」という。(食事25、ワイン7、コーヒ1各ユーロ)。外に出て振り返って見ると、Hotel del viale ristorante(☆☆☆)とある。屋根の向こうの黒い闇夜にホテルの部屋の明かりがいくつか灯っている。地の利の判った帰路。9時過ぎに、宿に帰ると「Eat well!」のおじさんにバッタリ合い、「Well ate.Well drunk、チャオ」で部屋に戻る。
水曜日の夕食が奇妙な体験。4時頃、ケーブルを降りてメインストリートをホテルの方に向かうとすぐ左にRISTORANTE BAR PIZZERIA Mont Fretyとあって、大きなガラス窓の中に結構お客がいてピザか何かを食べてる。清潔そうである。ホテルでシャワーを浴びババリハットでMont Fretyへ行くと閉まっていて7時からまた開くという。まだ1時間あるので、よそで一杯やってからと少し離れて開いてるバーに入る。
かなり広い店は混んでいる。奥のカウンターで、唯一英語の分かる女性にチンザーノにベルモットを滴らしてグラスに一杯作ってもらい、即金で6ユーロを払い、スナックは?と聞くと向こうのテーブルにあり食べ放題という。その座卓ぐらいの高さのテーブルの近くにやっと席を見つける。ソファーなどは中古の寄せ集め。ラップか何かをガンガン鳴らせていて、ウエータは皆小柄でワイシャツに黒のベストと黒ズボンにバンダナを巻いていて忙しく動きまわっている。座卓には個人用の紙の小皿が積み上げてあり、脇にプラスチクのナイフ、ホークが置いてある。大きな紙皿ごとにかなりの種類の食べ物が盛り上げてある。サラダ、ハム、ソーセイジ、チーズ、切り分けたピザ、焼き飯、カナッペ等々。焼き飯は冷えて長粒米のボソボソ、油がギトッとするので一口でやめた。各席にはテーブルが無いので小皿で食べる時にはグラスをソファーの隅に置く。
品のよいアフタースキーらしい女性がむこう向きにかがんで小皿に何かを取っている。私の視野の右側である。ガンガン鳴るラップに合わせて腰を振っている。こちらを少し振り向いて「アフガンでは、女性は腰も振れない」という。うなずく。また奥のほうから来て「エリザベスは女王として50年です」、「そうらしいですね」と答えると、彼女は相変わらず腰を振りながら「税金が掛かる」、「日本の天皇も同じです」。次に来た時、「ロンドンへ来ないか」などと愛想がよい。私同様、間違って入ってきて雰囲気に調子を合わせてると思う。
子ども連れの家族もいる。身を持て余し、中には入ってきてしばらくして帰って行くグループもある。黒衣装のウエイタはよく動く。この店は土地柄でない新風俗と判断する。30分ぐらいで満腹になり、 Mont Fretyをやめ、ババリハットをかぶってホテルに帰る。ホテルのバーで口直し。後の参考として看板のBar、Ristorante、Pizzeria、Taberna、Cuisinoなどは単独に、組合わせて表示されて世界中で微妙に異なる。
木曜日の夕食にMont Fretyへ行く。明るくて清潔。すぐに混み始める。ウエータ達も角を回る時、靴底をキュッと鳴らしてキビキビ働く。担当の年配のウエータ(マネジャか)に白のハーフボトルと適当なコースを注文する。忙しい中、適当に付き合ってくれるので、ペンと紙を頼んだら奥から持ってきてくれた。食べながらコースを書いてもらった。ミススペルあるかもしれないが次記。
(ワインの次からAnti,Primi,Secondi)
・VIN MUMPLIN PINOT(ローカル白ハーフボトル)
・MINESTRONE MONTANARA(野菜スープ)
・ RIGATONI AMATORICIANA
(トマト味ミートソースのマカロニにセージ添え)
・TROTELLE BURRO SALMONATA(バターソース味グリル)
・一かごのパン、アイスクリーム、ボトル水。35ユーロ。
チェックを頼んでカードを渡している間に、マネジャはGrappaをおごってくれた。ボトルの底に小枝が沈んでいて、ハーブだという。GENEPY ALTEMISIA GCACIALIS (アルコール50%)。
金曜日最後の夕食(これを英語で話すとヨーロッパ人は皆一瞬ギクリとする)は、案内地図をいろいろ調べて、Restorante Al Caminにする。フロントに予約とタクシーの配車を依頼する。待ってる間に地図をよく見ると、最初に夕食をとったHotel del viale ristoranteの50m程先と分かる。ホテルから800mぐらい。7時半「タクシーがきた、15ユーロだそうだ」とフロントの奥さんはいう。ババリハットで乗ってからしばらくして、運転手が「昼間は10ユーロだが、夜は15だ」と自分から言う。レストランに着いたのであらためて「いくら?」と尋ねると「15ユーロ」、「高いですね」、「10ユーロでよい、帰りも使ってください」と簡単だ。メータはない。
Al Caminは半地下で広くて落ち着いていて、客もすでに多い。全体が見えるテーブルに案内される。2、3段上がった奥にも部屋があり、若者がメートルを上げているが適当なバックグラウンドノイズ。食事中、背後の低い食器棚からウエイタがスプーンやホークを時々取りに来て「うるさいですか?」、「気にしない、初めてのレストランなので、様子が分かる」となって、そのつど短い話しをする。右のテーブルの子どもずれの家族が早めに帰る。
入れ違いに、ポインターのひもに引きずられた男がそのテーブルに座る。しばらくして後から、女性が来る。相変わらず、ウエイタがスプーンやホークを時々取りに来る。テーブルは丸くて四角いテーブルクロスでポインターはテーブルの下に行儀よくすぐ入る。男は長身、黒髪、ジャケットにアイロンのきいた白いワイシャツをしてノウネクタイでシャツのボタンを二つ外している。男は丸いテーブルの下の四角いクロスの三角の隙間にパンの切れ端を左手で差し出す。犬は首をクロスから出してペロリですぐ中に姿をひそめる。何度もそうするがよく出来上がっている。
ここでは、子羊ときしめんヌードルのANTI PASTI、フォアグラとアボガドの
PRIMI PIATTIがうまかった。お腹いっぱいで、SECONDI PIATTIはやめた。ミネラルウオタ、ワイン、デザートで32ユーロ。Grappaがおごりに出る。クールマイユールの最後の夕食を終えてホテルまで5、6分程、薄暗い道を気持ちよく歩いて帰る。
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