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2002 season 最新実体験レポート

西方真吾のGARDENISSIMA 2002体験レポート
月刊スキージャーナル10月号(2002.8.25発売)に掲載!
西方 真吾

 イタリア、ヴァルガルデナ、午後3時。柔らかい太陽の光と凛とした春の空気。一杯のカプチーノとジェラート。雄大なドロミテの山々。至福の時間がゆったりと過ぎていく…

 東京都スキー連盟下のエーデルスキークラブに所属している一向に上達しない先生泣かせの中級スキーヤー。カプチーノとミネラルウォーターをこよなく愛する28歳。家族は妻とネコ2匹。そんな自分が1998年のチェルビニアでのアズリッシモ、2000年のトナーレでのジガンティッシモに続き、ヴァルガルデナで開催されるガルデニッシマに挑戦するなんて「xxxx」(自主規制)と周りの人に言われても仕方が無い。

 今回参加したガルデニッシマのコースプロフィールは全長6km、標高差約1000m、旗門数は100を超える異様なスケールを誇る。参加条件もヘルメット着用のみ。老若男女、プロアマ問わず参加できるGSレースだ。(スノーボードでもOK)実にイタリアらしいおおらかさである。で、どういう訳か、出発前にISCの柴田さんから「今回の旅行の体験記書いて下さい。よろしく」とお願いされてしまった。物事の頼み方が上手い人だ(苦笑)そこで旅行中に書いていた日記を参考にしながら強く印象に残った日のことを思い出してみる…
ガルデニッシマに挑戦する西方真吾さん


■3/23。快晴。気温−2度。
 現地に到着して3日目。この日の予定はコーチを招いてのポールトレーニング。サッソルンゴの麓に広がるチャンピノイの1コースに15旗門ほどのGSセットを立てる。昨晩に降った15cmの新雪でポールセットとバーン整備に一苦労する。

 国内外を問わず、どこに行ってもどのコーチに見てもらっても言われることは一つ。「もっと外足に圧をかけろ」。自分の滑りはポジションが後ろ気味なので効果的に外足に乗れないし、上体は起きあがっているため不細工な滑りになっている。そこで思いきってストック無しでポールに入ってみることにした。ストックが無い場合はどうしても両手を前に出さなければならないし、悪い癖である腕を煽ってターンすることもできない。自然にポジションが修正されるように感じるのだ。とても気持ちよくスキーに乗ることができる。「クレイジーだけどいい練習だ」とコーチも言ってくれた。恐らく半分はお世辞だろうけど。
 
 参加人数も少ないのでスタート地点で休憩しないとトレーニングを続けられない。持ってきたミネラルウォーターのボトルをみんなで回し飲みする。水を一口飲むと体の隅々にまで酸素が届くかのように水の美味さが体に染み渡る。上を見れば雲一つ無い快晴の青空。風の音と雪の音だけが聞こえてくる。遥か先まで続く山々を眺め、ストレッチをしてスキーを履きポールへ入っていく。約3時間のポールトレーニング。高い集中力を保ってトレーニングするならこの時間だけで充分だ。

 高地順応もできてきたようで体調も良くなってきた。明日はガルデニッシマが待っている。今日の夜だけは酒も飲まずに寝た。明日の朝は早い…。
ホテル前にあったキリスト像。

2日目の昼食を取ったヒュッテ。
美味しかったなぁ。SECEDAからオルティセイへ向かうコースの途中。

3日目。ポールトレーニングのシーン。
後ろに見えるのはサッソルンゴ。
(細貝先生撮影)

3日目。チャンピノイからワールドカップ男子ダウンヒルコースを望む。

4日目。レース当日。天候回復の兆し。

■3/24。曇り。気温−2度。
レース本番の日。
 7:30過ぎにスタート地点のセチェダへ昇る。標高2518m。強風のため気温は−14度まで下がっていた。寒くて震えが止まらない。前日までの穏やかな天気はどこかへ去っていってしまった。見上げると暗灰色の雲が物凄い速さで空を駆け抜けている。東の空が明るくなっているので天気が回復することを祈りつつインスペクション開始。ガルデニッシマのインスペクションは豪快。堂々とポールアタックする人が続出する。けれど旗門員は何も言わない。「本当にいいのかなぁ?」と思いつつ体を暖めるために自分もアタックする。GSよりもSGに近いようなポールセットになっている。それにしても硬いバーンだ。

 スタート地点にいると寒さと強風で凍りつきそうなのでレースコースのほぼ中間地点にあるリフト乗り場脇で出走順が早い人たちを見守る。パイオニエリB2(60歳−65歳)クラスの井上さん、鏡さん、シニア女性(35歳以下)クラスの天野さんが無事コースを通過していく。天野さん、レース中にこっち向いて手を振っている場合じゃないって。(苦笑)一緒に見ていた相良さんが大慌てでスタート地点へ昇る。デュアルスタートだから意外に早く出走順がやってくる。相良さん間に合うのかなぁ。
レース出走直後の大斜面。(細貝先生撮影)


 そうやって出走順を待つこと3時間あまり。天候もかなり回復して青空が見えている。スタート地点では細貝プロがみんなのスタートを見守っている。寒い中での応援、ご苦労さまです。

 ゼッケン484。ついにスタート。コース合流地点までは右側の青コースを滑る。スタート直後の急斜面は雪が落ちて青光りしている。初っ端から腰が引けてバランスを崩す。スケートリンクにポールが立っているかのようだ。簡単に滑走ラインが落ちていく。先行して滑っていた赤コースの同走者が派手にクラッシュしてコースアウトした。視界の左隅でその光景がコマ送りで過ぎていく。そんなものを見てしまったので余計に焦る。スタート前に決意していたフルアタックの意志もむなしく必死の体で急斜面を滑り降りる。まだまだこれからなのに緊張で手が痺れてきた。小さいプレジャンプから赤コースと青コースの合流までを何事もなくクリア。これからが辛抱の時だ。中間地点のリフト乗り場あたりから急にコース幅が狭まり連続した斜面変化がやってくる。中斜面は旗門の振幅が大きくなるため油断はできないし、緩斜面は旗門がほぼストレートに設定されているため予想していた以上に滑走スピードが乗ってくる。手の震えはまだとまらない。コース脇から歓声が聞こえてくる。最後の狭い廊下を抜けて大半径の高速右ターンを気持ちよくクリアして最後の長い緩斜面に突入。太腿が悲鳴を上げているが必死の思いでクローチング姿勢を取り続ける。そして倒れこむようにゴール。顔を上げることができない。俯いたまま自分の手を握り締めてみる。まだ痺れが続いていてあまり力が入らない。カラダの痺れがココロに伝わってくる。何かが響くような感じ。忘我の境地に達するような感覚。現実に戻ったのは「ジャポネーゼ!サムラーイ!」と言う司会の声。今の自分にはそのコールに応える余裕がまったく無かった。

 ゴールエリアを出て先に滑り終えた柴田さん、相良さんと握手。二人とも呆然半分、安堵半分という感じだ。そんな自分も同じなのだが。

 結果はシニア男性クラス72人中61位。目標としていた半分以上の順位には届かなかった。カテゴリートップとのタイム差は約1分20秒。悔しいけれどこれが今の実力である。

 15:00過ぎから表彰式が盛大に始まった。次々に各カテゴリーの上位選手の表彰が始まる。FISポイント所持者のトップは、男子がローランド=フィッシュネーラー。女子はイゾルデ=コストナーが5連覇を達成。彼女はヴァルガルデナの麓にある街、オルティセイの出身らしい。大歓声が上がる。その他にもソルトレイク・パラリンピック、アルペン/男子スーパー大回転(LW2クラス)の銅メダリスト、フロリアン・プランカーも表彰されていた。そしてパイオニエリB2クラス。なんと一緒に参加していた鏡さんが2位、井上さんが3位で表彰を受けた。表彰台に昇った鏡さんはちょっと照れているようだ。会場から歓声と盛大な拍手が上がる。(残念ながら井上さんは体調不良により表彰式を欠席)

 その日の夕食は、全員が解放感に包まれていた。やはり皆どこか緊張していたのだろう。ISCとして目標にしていた"全員完走"も果たすことができた。完走記念にスプマンテのボトルを空ける。レースリザルトを見ながらのレース話が盛り上がる。達成感に満たされた長い一日が終わった。

6日目。セラロンダ、グリーンコース。マルモラーダを望む。

■3/25。快晴。気温−2度。
 ヴァルガルデナ滞在も残り3日。ガルデニッシマも終わったのでのんびりとスキーを楽しめる。今日はドロミテスーパースキー名物、セッラ・ロンダに挑戦することにした。

 セッラ・ロンダとは巨大な岩の連なりであるセッラを巡るクルージングスキーツアーだ。4つの峠を超える滑走距離は約25km。リフトに乗る距離も合わせると約40km。滑走標高差の合計は約8000m。所要時間は休憩無しで約4時間らしい。ドロミテスーパースキーパス(共通パス)と体力があれば誰でも挑戦でき
る。
6日目。セラ。

 10:00出発。鏡さん、柴田さん、相良さんと自分の4人で行くことにした。今回は時計回りのオレンジコースを選択。ヴァルガルデナからガルデナ峠(標高2297m)に昇り右手にセッラ山塊を見ながらコルフォスコを経由しコルヴァーラへ降りていく。暖冬の影響で雪が少なくコースが制限されている場所もある。所々でオレンジコースの看板を探しながらひたすら滑り降りていく。

 コルヴァーラへのゆったりとした森林コースが終わるとゴンドラに乗りアラッバ方面へ進む。アルタバディーアを背に見ながら昇った地点が標高2193m。ここまでの所要時間は約1時間くらい。一緒に滑った柴田さんの頭痛が酷そうだ。飲み過ぎか高地の影響か?。ゆっくりと休憩を取って出発。今度はアラッバへ向かって滑り降りていく。南側の斜面になるため雪質が柔らかくなっている。カンポロンゴ峠(標高2087m)を過ぎ、幾つかのコースを滑ってアラッバの街へやっと到着。

 スキーを外してアラッバの街を横断。今度はゴンドラに乗ってポルタ・ヴェスコヴォに昇る。標高2516m。スタートしてから2時間以上が過ぎた。ここのロケーションは素晴らしい。北にセッラ山塊、南にあのマルモラーダを見ることができるのだ。絶景と共に美味しい昼食を取ることができるオススメの場所。雲一つ無い快晴の下。白い山々が美しい。

 そしてヴァルガルデナからスタートしたセッラ・ロンダはポルタ・ヴェスコヴォが折り返し地点になる。

 今度はポルタ・ヴェスコヴォからオレンジコースを辿ってポルドイ峠を目指す。しかしその途中でコースを間違ってしまい柴田さんとはぐれてしまった。急いでゴンドラに乗りもう一度ポルタ・ヴェスコヴォの超絶斜面(標高差900m以上)を滑る。

 スキー場間の連絡リフトの乗降場所には必ずドリンクバーがある。仮設の小屋にテーブルと椅子を並べちょっとしたオープンカフェになっている。お喋りする人、居眠りする人、日光浴する人。実にゆったりとした時間を過ごしている。柴田さんはそこで待っていてくれた。

 いったんポルタ・ヴェスコヴォを下ってしまうとポルドイ峠まではリフトやTバーを使って斜面をひたすら昇ることになる。オレンジコースではここが一番きつい場所。リフトから左手を見ると反対回りのグリーンコースを滑る人達の列が見える。森林限界を超えポルドイ峠(標高2413m)に辿りつくと広大なスキー場があった。右手奥にはサッソルンゴが遠くに見えている。もう少しだ。

 と、思ったら、セッラ・ロンダはまだまだ続くのである。リフトに乗り、滑り降りることの繰り返し。セッラ峠(標高2187m)を超えてようやくサッソルンゴの麓、セッラ(標高2248m)についたのが午後3時過ぎ。ここから見るサッソルンゴの山影は迫力満点である。少し休憩を入れてチャンピノイ方面へ向かう。チャンピノイ頂上のゴンドラ駅を過ぎ、すり鉢を下るような急斜面の森林コースを必死で降りる。疲労度は最高潮に達している。スピードに耐えきれず内足一本の高速ターンをやってしまった。左膝の痛みが酷くなる。柴田さんに「すごい滑りだなぁ」と言われてしまった。苦笑いするしかない。

 ようやくゴンドラ乗り場に到着。所要時間約5時間のクルージング。みんな笑いが止まらない。自分の中にあるスケールがすべて狂ってしまった。それにしてもよく滑ったなぁ…

…日記からの回想はここまで。
滑って来たのはこんなヤツ。

カプチーノ。

 楽しいですよ、ホント。スキーをすることがこんなに楽しいと感じることができる。それだけで幸せになれる。ココロとカラダのすべてで味わう快楽。いつまでもどこまでも滑って行けるような浮遊感から生まれてくるスキーヤーズハイ。これを味わうためにイタリアスキーに来ていることを再認識できた旅だった。

 最後に同行して下さった細貝プロ。一緒に参加した井上さん、鏡さん、相良さん、柴田さん、天野さん。ツアーの手配に奔走して下さったISCのみなさんに深く感謝いたします。

 「青色の空。赤い山々。白い空間。風の感触。凛とした空気。人生の匂い。快楽の香り。一杯のカプチーノ。それがイタリアスキー」

追記。…来シーズンも行こうかなぁ…


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